(ブルームバーグ): 日本の小売株のパフォーマンスが二極化している。為替市場で円安の修正が進み、輸入コストの増加懸念などこれまであおりを受けてきた銘柄群が反転攻勢。一方、インバウンド消費の増加を通じ円安メリットを享受してきた百貨店株は急失速だ。
7月末を起点にTOPIX小売業指数の構成銘柄別株価パフォーマンスを見ると、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングスの27%高を筆頭に、立ち食いステーキのペッパーフードサービスが20%高、家具・インテリア用品のニトリホールディングスが20%高、衣料品雑貨のパルグループホールディングスは16%高などこれまで円安に苦しめられてきた「内需系小売株」が上昇率上位に並ぶ。
対照的に、下落率上位を占めるのが円安による訪日外国人客回復の恩恵を受けてきた「外需系小売株」の百貨店。三越伊勢丹ホールディングスが25%安、J.フロントリテイリングが21%安、高島屋は19%安と総崩れだ。
絶対的な国内外の金利差を背景に2022年ごろから円安が加速し、今年7月には対ドルで161円95銭と約38年ぶりの安値まで下落。その後は、日本銀行が利上げする一方で米国の利下げ観測が高まり、株価暴落によるリスク回避の円買いも重なった8月初めに141円台後半まで急反発した。過度な円安は輸入物価の上昇を通じて国内消費の停滞につながっていたため、今後状況が好転する可能性がある。
大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当は、輸入の多さから円高メリットを受けやすく、日本人の利用が主となる専門小売企業に注目すべきだとみている。
日本の小売業はここ数年、円安で厳しい逆風にさらされてきた。しかし、ニッセイアセットマネジメントの伊藤琢チーフ・ポートフォリオ・マネジャーは、こうした環境下でも企業努力を重ねた一部の小売企業は収益力が格段に上がっていると言う。
伊藤氏は「為替市場の先行きは不透明だが、円高基調になるならニトリHDなどは利益率も相当上がるだろう」と述べ、これ以上円安は進まないとみる投資家がニトリHDや他の小売株を買い始めているとの見方を示した。
大和証の木野内氏は、日本の政治日程からも目先は円高が継続しやすいとみる。27日に行われる自民党総裁選に続き衆院解散・総選挙も予想されるため、それまでは国民生活への影響を気にする財務省・日銀も円安阻止に動くことが期待できるとの見立てだ。
もっとも、直近の大幅な株価変動を踏まえれば、こうした小売株物色のローテーションはかなりの部分が終わった可能性はある。ニトリHDと三越伊勢丹の8月のパフォーマンス格差は49%ポイントと、月間としては過去最大になった。
ただ、2年以上にわたりマイナスだった実質賃金は6月にようやくプラスに転じた。春闘での歴史的な賃上げや夏のボーナス増加でプラス圏の定着が見込まれるほか、所得税減税の効果も期待できるため、ファンダメンタルズ面から「内需系小売株」への追い風を見込む市場関係者は少なくない。
マネックス証券の広木隆チーフストラテジストは「イメージの部分も大きいが、実質賃金のプラスが定着するということになれば、国内の消費も活性化に向かうだろう」と話した。